「……いない?」
休む間もなく走り続けて辿り着いたその場所に、の姿はなかった。
乱れる呼吸を整えながら辺りを見回す。
汗で貼りつく服に舌打ちして上着を脱ぐ。
……場所を間違ったか?
袖に引っかかった花束が、ぱさりと砂の上に落ちるのを目で追って
僅かに残ったそれに気付いた。
「……足跡?」
砂浜に残った足跡が続いていく先に目をやって、息を呑む。
岬に続く、緩やかな上り坂。
その場所に立っているのは……灯台。
軋む音と共に、扉が開く。
ざあっと海の凪ぐ音が押し寄せてきて、眩いばかりに射し込んでくる夕陽の赤。
「綺麗だね」
手すりに寄りかかって、少しずつ赤味を増していく海を見ていたが、そう言って振り返った。
「ああ……綺麗だな。」
嘘の様に静まった動悸が、再びドクドクと脈打ち出すのを感じながら、静かにの隣に並ぶ。
「……見つかった?」
視線を海に戻したが、ぽつりと落とすように尋ねるのに
ゆっくりと海風を吸い込んで、言葉と共に吐き出した。
「……悪い」
「?」
の視線を頬の辺りに感じながら、暮れて行く空に目を向けたまま言葉を続けた。
「5つ目の星が、見つけられなかった。」
「ふふ……そっか。」
怒るかがっかりするかと思ったが、やけに上機嫌で笑う。
「5つ目の星なら、最初からあるよ。」
「……どういうことだ?」
眉を寄せるオレに、は手すりに乗せていた手を上げて人差し指を立てた。
「昨夏の甲士園の星、羽ヶ崎学園4番の志波勝己!」
「つまり……クリアってことか?」
「うん、はいっ誕生日プレゼント!」
「……サンキュ」
とりあえず受け取ろうと伸ばした手が包みに触れる前に、がすっとプレゼントごと手を隠す。
「……オイ」
不機嫌が声に出るのを止められず、顔をしかめたオレにごめん、と顔を伏せて小さく謝ったが、意を決した様にオレを見上げた。
「でも、志波が欲しいものはこれじゃないでしょ?」
「……え?」
思いがけない言葉と、真剣な眼差しに戸惑う。
「志波の……ホントに欲しいものは」
静かに言葉を紡ぐの瞳が、まっすぐにオレを映す。
「……見つかった?」
……そうか。
ハッとした顔のオレを見て、思わず笑った。
「……ああ、見つけた。」
手を伸ばすと、呆気ないほど簡単にに届いた。
感じてたよりずっと側にいるの唇がふるりと震えて、ぎこちない微笑の形になった。
今にも泣き出しそうなの瞳の中に、おんなじ様な顔したオレがいる。
今日、がオレに探させてたのは、5つの星でも何でもなく、オレの本当の気持ち。
心ん中、ずっと閉じ込めて、蓋してた思い。
傷つくのを恐れて背を向けた、本当に欲しいもの。
『きっと、かなうよ。志波の願い。』
あの冬の日、おまえがくれた言葉をオレは信じるから
どうか、今まで嘘ばかり吐いてたオレを信じて欲しい。
「おまえが欲しい」
柔らかな頬に触れていた指先を、そっと滑らせて小さな頭を引き寄せる。
「好きだ。」
「わたしも……好きだよ。」
抱き締める前に見えたの笑顔に、思わず力がこもった腕の中から
ついさっきまで、予想もできなかった返事が届いた。
「別々の道を……大分、遠回りしちまったけど」
色を落とした夕焼けが、ひとつに重なる2人を包む。
「これからは同じ道を歩いて行こう……2人で、一緒に」
あの日、雪に願った想いは
にしかかなえられねぇものだから