ものすごく昔のことって気がするが、考えてみりゃたった3年前。
 だけど確かにその時は、オレとはただの同級生でしかなかった。

 親子連れの目立つ、休日の動物園。
 2つ目の星を探しに来たのはいいが、図体のデカイ男が一人で動物園。
 ……なんとも言えない虚しさが込み上げてくるのは、拭いようもない。


 とここに来たのは、3年くらい前だ。
 とりたてて仲が良い訳でもない女子から、休日に度々呼び出されるってことに、ようやく馴染んできた頃。
 最初こそ、事故とはいえ唇を奪ったことへの贖罪にと受けてた誘い。
 だが、特に気を使わなくても勝手に楽しそうなと過ごすことが、いつの間にかオレの楽しみにもなってた。
 気が置けない友達。男とか女だなんてことはどうでも良くて。

「ただ今、動物とのふれあいコーナー、開催中です!」
 張り上げられる飼育員の声に、視線を向ける。
 仕切られたスペースに放されたうさぎやモルモット。
「うさぎさんカワイイ!」
「わたしも触るー!」
 楽しそうに声を上げる幼稚園くらいの男の子に、どこか迷惑そうにも見える表情で撫でられてるうさぎ。
 その隣でおっかなびっくりといった風に手を伸ばす女の子。
 ……オレととそう変わらねぇなと、思わず笑みを洩らした。
 オレの前に集まってくるうさぎたちに目を丸くして、でもすげぇ幸せそうな顔でうさぎに埋もれてた。
 そんながとてつもなく可愛くて、妙にドキドキしたのを覚えてる。

 ……今思えば、それがきっかけだったのかもしれない。
 が女だってこと……それも、かなり可愛いヤツだってことを、急に意識するようになったのは。
 逆にそれがなけりゃ、今でもあんな2人でいられたかも……なんて、何の意味もない仮定の話。
 それに、きっと……

「ヤギさんに餌をあげてみませんか?」
「ありがとう!」
 近くにいた子供が飼育員から動物の餌を受け取った。
 何気なく目をやって、はっとする。
「それ……?」
 オレの呟きを聞きつけた飼育員が、にこにこしながらオレに向かってそれを差し出した。
「どうぞ、動物用のおせんべいです。」
「……どうも。」
 受け取ったそれは、星の形をしている。

「……2つ目、クリア。」
 呟いた隙にヤギに食べられてしまったが、『星を集めよ』じゃなくて『星を見つけよ』だから問題はないだろう。
 そのくらいは言いくるめられる。

 ポケットから出したカードで、次の位置を確認する。
「……海水浴場……って、まったく逆の方向じゃねぇか……。」
 散らばった数字を見れば、この順番が近い場所に繋がってるわけじゃないのは一目瞭然。ここからもっと近い場所だってある。
 だが何も意味がないなら、わざわざ順番なんて指定しないだろう。
 順番を無視して全部回ってから、順番どおりじゃないからダメだと言われるのも癪だ。
 ルールブックは。ここは大人しく、順番を守ることにする。
 ……確かオレの誕生日祝いのはずだが、気にするのは止めておこう。










 晩秋の海。冷たい風を遮るものもない遊泳場に、もちろん人影はない。
 見渡す限り広がる砂浜。
 ……まさかこのどこかに3つ目の星が埋まってる、なんて言わないだろうな。
 空は晴れていて清々しい。空を映して青く輝く海も、曇り空を溶かした寂しいものとは違うのに。
 人気のない海はやっぱり寂しくて、気が滅入る。
 目を逸らすように振り返った視界に、シーズンオフで板戸の閉められた海の家。どこもかしこも哀愁を誘う。

 夏は逆の意味でうんざりする程、海水浴客が押し寄せて活気づいてたのを知っているから、こんなにも寂しい気持ちになるんだろうか。
 それとも、前に来た時は隣にがいたから……?

 目を閉じると浮かんできたのは、オレの声に振り向いたの情けない表情。
 今にも泣き出しそうに見える頼りない姿に、思わず全速力で駆け寄った、その時の焦りに似た気持ち。

 抱きしめたくて、そんなこと、出来るわけもなくて。
 がオレの側から消えることが、どれだけ苦しいかって思い知った。
 そこにいるを確認しただけで、胸がいっぱいになって。今にも溢れそうで。

 自覚した。が好きだって。どうしようもねぇくらい好きだって。
 失うことなんて、きっと耐えられねぇ。どうにかなっちまう。
 ……だから

 だからが元春を好きだって知った時、オレは親友として側にいることを選んだんだ。
 完全にを失うことなんて、出来るわけもなかったから。

 だから今も、はオレの側で笑ってる。
 出会った頃と同じ笑顔で、オレの側にいてくれるんだ。
 それが……オレの選んだ現在。










「よりによって……」
 ……なんでここなんだよ。
 何度カードを見直しても、4つ目の星の在り処はここに間違いない。
 ご丁寧にも花のマークが入ってる地図を睨み、カードをポケットにしまいながら『花屋 アンネリー』と描かれた店を覗きこむ。
 せめて、元春がいなきゃいいが……

「アンネリーにようこそ、地球のお方!」
「……そういうことか。」
 底抜けに明るい声。
 どうみても待ち伏せしていたデカイ図体。
 訳知り風なセリフに、眉間に刻んだ皺に超がつく。
「いやいや羨ましいぜ勝己クン!誕生日にお宝探しのミステリーツアー!」
「……喜ぶのはおまえくらいだ、真咲。」

 少し考えればわかることだった。
 はオレの誕生日プレゼントを何にするか、悩んでた。
 が誰かに相談するとしたら、相手は元春しかいない。
 と親しい人間の中で、一番オレを知っているのは元春だ。
 きっと、悪気はなく。むしろ、良かれと思って。
 ……だけど、本当に?

 本当は、それを口実にして、元春と話したかっただけじゃないのか?
 元春への気持ちを捨てきれなくて、オレをダシにして近付きたかっただけじゃないのか?




「……るな。」
「……勝己?」
「ふざけるな!やってられるかこんなこと!!」
 伸ばされた元春の手を振り払う。
 目を丸くした元春を睨み付けて、ポケットから掴み出したカードを地面に投げ捨てた。







04・り戻せないことばかり目に付いて、堪らなくなる
どんなに目を凝らしても、見つけられないんだ。その時だけは。
09/11/21







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