自主練を終え、昼メシや着替えを済ませ、いざ宝探しの冒険へ!

 ……って19にもなって何やってるんだ、オレ。
 しかも詳しい説明をまったくされてないことに気付く。
 が言ってたのは……

『この世に散らばる5つの星を見つけよ!』

 ……だったが、どこから探せって言うんだ?
 そもそも5つの星ってなんだ?
 闇雲に探し回って、ついうっかりプレゼントの方を見つけたりした日にゃ、一生口聞いてもらえなさそうだ。

 だが、はやることがどっかズレちゃいるが、無理難題を他人に押し付けるようなヤツじゃない。
 普通に考えりゃわかること……のはずだ。
 オレは眉間に皺を寄せて、とりあえず推測してみる。

 この世に散らばる……なんて言ってはいるが、常識的に考えてせいぜいはばたき市内だろう。時間的にもそんなもんだ。
 それから『星』。今は昼間だから本物の星であるわけはない。
 星の形をしたもの、もしくは星に関係する場所だ。
 気の早いクリスマスツリー?
 ……いや、あちこちに見かける時期だが、多すぎて特定出来ねぇ。だが毎年、駅前広場にでっかいツリーが……

「プラネタリウム……?」
 不意に思い出して、呟く。
 確か駅前にプラネタリウムがあったはずだ。
 何年か前から閉館中で、が残念がってたのを覚えてる。
「……行ってみるか。」
 ようやく手がかりらしいものを得てホッとしたオレは、足早にはばたき駅前へと向かった。









 プラネタリウムの閉ざされた門に、一枚のカードが貼り付いている。
 オレが手を伸ばして丁度届く高さ。……間違いない。
 カードに描かれたやたら歪な星のマークに確信を得て、ニヤリと笑う。
 手に取って裏返すと、見覚えのあるの文字。

『ようこそスタート地点へ!
 もしかして、1つ目の星ゲットして楽勝だなとか思っちゃってる?
 ふふふん、甘いよ!このカードは手がかりだからノーカウントです!』
「………覚えてろよ。」
 見透かされたことに対する気恥ずかしさに呟くと、オレの前を通りかかった通行人がびくっとして逃げて行った。

『でもここに辿りついたご褒美に大ヒント!
 ちゃんと志波の初めての場所と言えば!』










 羽ヶ崎学園高等部。
 懐かしいような、それでいてつい昨日も通っていたような、そんな感覚に目を細める。
 オレとが初めて会ったのは……グラウンド。
 持ちきれねぇだろって数のハードルを両手で抱えて、よたよた頼りない足取りで運ぶ女子生徒。
 初対面とはいえ放っとけなくて手伝おうとしたってのに、自分の役目だからって譲らねぇ。
 良く言や責任感が強く、悪く言やただの強情。
 引くに引けず強引にハードルを奪おうとして、……あんな風に。

 グラウンドにぽつんとひとつ、置かれたままのハードル。
 ……ああ、確かにこの辺りだったな。

 オレとが初めて出会って……
 そして、初めてキスした場所。




「……事故だけどな。」
 胸によみがえる甘酸っぱい感覚を振り払うように、素っ気なく呟く。
 ハードルに貼り付けられたカードを見つけて手に取ると、後ろから声がかかった。
「志波くん。」
「……若王子先生?」
「やあ、お久しぶりです。」
 振り返ると部活だったんだろうジャージ姿の若王子先生が、ひらひらと手を振りながらこっちに歩いて来ている。
「ご無沙汰してます。」
 丁寧に頭を下げて挨拶をすると、いえいえ、と変わらない笑顔が返ってきて。

「あれ?ハードル出しっ放しでしたか?
 むむ、後で注意しておかないと。」
「ああいや、すいません。これは……オレが」
 真面目な顔で眉を寄せる若王子先生に、陸上部にとばっちりがいかないようにとやむなく罪を被る。
「志波くんが?……ああ、そういえば。」
「え?」
 思い出した、と言うように両手を合わせた若王子先生が、オレを見て優しく笑う。
「今日は志波くんの誕生日でした。おめでとう。」
「……ありがとうございます。」
「お祝いと言っては何だけど、このハードルは僕が戻しておいてあげよう。」
「はぁ……どうも。」
 以上につかめない若王子先生の登場に、カードを見ていなかった事を思い出して好意に甘えることにした。


「……なんだ、これ?」
 カードに描かれていたのは、1から5までの数字。それもてんでバラバラに。
 数字からして星の在り処を示してるってのはわかるが……どれがどの場所なのかがわからない。
 他に何か書いてないかと裏返してみるものの、手がかりはゼロだ。

「どうかしましたか?」
 あぶり出しじゃないかとカードを陽に透かしていると、戻ってきた若王子先生が不思議そうに尋ねてきた。
「……実は」
 少し躊躇ったものの、まったく意味がわからないんじゃ仕方ないと、先生に相談してみる。
 別に他人の手を借りるなと言われたわけじゃないし、若王子先生なら構わないだろう。

「ふむ……手がかりはこれだけですか?」
 番号の書かれた2枚目のカードを見て首を傾げていた先生が、オレの差し出した1枚目のカードを見てああ、と頷いた。
「ほら、この数字の位置と1枚目のカードに描かれた星の形。ぴったり一致します。」
「……あ!」
 先生に促され、2枚のカードを重ねて陽に透かして見ると、確かに星の尖った5つの角と数字が書かれた場所が一致していた。
「志波くんの読みどおり、これは星の在り処を示したものに違いないでしょう。この数字の順番どおりに回れってことですね、きっと。
 そして、詳しい場所に関しては……多分、このカードのサイズが手がかりです。」
「カードのサイズ……ですか?」
 首を傾げるオレに構わず、若王子先生は自分の指をカードの縦と横に合わせる。
「捜索範囲をはばたき市内に限定するのは僕も賛成です。なので、はばたき市をこのカードに合わせて縮小すると……
 ちょうど、この”1”の場所が羽ヶ崎学園になりますね。」
「……そうなんですか?」
「はい。そして、1から2への直線の長さと角度から計算すると、2番目の場所は動物園ですね。」
 ……計算って、どうやって?
 混乱しているオレを見て、若王子先生は困った様に笑う。
「志波くんは地図を見た方が解り易そうですね。図書館に行きましょうか。」











「丁度いい縮尺の地図を探してきます。ちょっと待ってて。」
「すいません。」
 結局、すっかり若王子先生に頼る羽目になっちまった。
 いや、これはどう考えてもヒントが少ないせいだ。
 ため息を付きながらも、足は習性のようにいつもの席に向かう。

 そういや、ここで初めてに会った時
 あいつ、思いっきり驚いた顔してたな。
 オレが図書館にいるのが本当に不思議!って顔で
 ……高い棚の本を取ろうとしてたのを、後ろから急に声をかけたせいもあるかもしれないが。

「……星」
 不意に、その光景がよみがえる。
 あの時、が取ろうとしていた本は、確か

 慌てて、記憶にある本棚の場所に急ぐ。
 確かいつもの席から見える棚の、一番上の段だ。
「……ここだ!」
 仕分けられた本の、プレートに書かれた『地学・宇宙』の文字。

『……どれだ?』
 記憶を探って、あの日の指が示した本のタイトルを思い出す。
 分厚い難しそうな本の中で、一冊だけやけに小さくて薄い……
「あった!」
 手を伸ばすと、よみがえるの声。
『志波くんって、背、高いね……』
 ああ、そうだ。あの日、この場所で
 オレみたいにデカくなりたいって、真剣に言うのがおかしくて

 手に取った星座の本から、ぱらりと一枚のカードが落ちた。
 そこには、カードに詰めこまれたはばたき市の地図。

 ここは……オレが
 初めて笑顔を見せた場所。








03・会った後、二人が近づくまで
出会った後の方が重要だけど、出会いのインパクトも捨てがたい。
09/11/20





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